【雑感 酒と煙草、もしくは◯◯について】

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葉巻を吸ったことがあるだろうか?そうそう、今思い浮かべた、あのキューバの軍人が吸ってそうなぶっといヤツである。

私は普段はタバコをやらないのだけど、東京やなんかに行くと悪い先輩がいて、私に心地よい苦味と甘美な背徳感をクルっと巻き込んだ、そのぶっといヤツの入れ方を教えてくれる。彼が言うには、"葉巻は紙巻と違って吸った煙を肺に入れないから中毒性が低い"らしいが、あのなんともイカツイ見た目からして説得力は希薄である。ゴリゴリに刺青が入ったにーちゃんに、"ぼく人殴ったことないよ"って言われても、絶対嘘やん!って、そんな感じ。

まぁ、ともかく、人生なんでも経験ちゅーワケで私もやってみるのだが、これが案外に"難しい"。

 

難しいってたって、火をつけて吸うだけだヨ。無論言葉にしてしまえばそうなのだが、口に運ぶ間隔や灰を落とすタイミングを誤るとすぐに火は消えてしまう。それに肺に入れずに楽しめなどと言われても、そもそも人間の体は口に含んだ空気を肺に入れるようにできているのだから体からすれば道理に合わない。(まぁ嗜好品などというのはそもそも幾らか道理に反した代物なのだろうけど)

それでも何とかかんとか、生まれたての赤ちゃんが乳を吸うみたいに、覚束ない動作をこなしていると、葉巻の先端から拡散してゆく煙と目が合う。ユラユラと目の前の空間を登るそれは、一見無秩序に見えてなんらかのパターンを形成し、そのうちに消えていく。否、消えていくという表現は厳密でないかもしれない、煙はただ広がって、私の両眼の分解能より低い密度に拡散していく。やがてこの微粒子たちはどこか遠くの街まで行ったりするのだろうか。

 

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ところで、と脳内会議の議長がハードボイルド担当のヒゲモジャの話を切った。

 

"ところで、我々はタバコの何を楽しんでいるのだろう"

 

嗜好品というのはそれそのものより、むしろ"それを相手にしている私を内包する時空間全体"を楽しんでいる、という話は何処かに書いた気がするが、それにしたって葉巻でも酒でも、『それそのもの』の何かを楽しむという名目でやってるワケだから、なんというか、『それそのもの』単独でも有意味なハズなのだ。

 

あじ?におい?それとも本当に"葉巻を吸っている自分"を愛でているだけなのだろうか?(もちろん依存性という答えが最もストレートな訳だがそれはあくまで客観的な説明であって吸ってる人にしてみれば依存性もクソもない)

 

酒だってそうだ。ウイスキーを傾けている時に、私は何に対して興奮しているのか。たしかに味は上手いと言っているけれど、うーん、オレンジジュースの方が甘いしなぁ。仰々しく匂いを嗅ぐけれど、じゃあヨードチンキで興奮するかっていうとそんなことはないし。…結局、私は酒の何を楽しんでいるんだ?

 

…煙のように出てきたギモンはやはり煙のように頭の少し上あたりをグルグルと回っている。

 

私が酒を飲んでいるときや、悪い先輩がタバコを吸っている場面を丹念に思い出してみると、どうやら酒やら煙やらを口に含んだ後に最もいやらしい顔をしている。丁度、口の中に"味"と"匂い"が満ちるタイミング、その時間発展を五感を総動員して感じる時、あ、それそれその顔、あぁなんといやらしい顔なのだ…。

 

 

 

…つまるところ、我々は"美味い"という概念に五感の色々な入力値を詰め込みすぎている。鼻をつまんで食べる料理があまり美味しくないのも、暗闇ですするラーメンの味がしないのも、結局、"美味い"という概念に、味覚だけではなく、嗅覚も視覚だって深〜く関係しているとうことなのだ。酒もタバコも例外でなく、その"美味さ"は味覚や嗅覚だけで議論できるものではないということだ。

 

どうだろう、私たちは1つの言葉や概念に多くの感情を詰め込みすぎているのかもしれない。単純に思えることにも本当は感性いろいろな要素が入っていてそれらの微妙な割合こそ、『それそのもの』の本質なのかもしれない。

 

【雑感  酒と煙草、もしくは◯◯について】

 

◯◯には何が入るだろうか、人生、愛情、いやもっと日常的な、"脇道の生垣に咲く春の花の良い香り"みたいな、そういうふとした瞬間の感情すら、複雑で微妙な何かを含んでいるのかもしれない。

 

…飲んでる時はなーんにも考えてないのだけど。